ペパボに博士号取得者誕生!就活、社会人学生生活を振り返る、渡辺研究員のキャリア

2016年に設立されたペパボ研究所に、昨年入社した新卒メンバーが、この春博士号を取得しました。現時点ではペパボ唯一の博士号取得者となったわたさんに、取得までの道のりをインタビューしました。

自己紹介

渡辺 龍二(わたなべ りゅうじ)
あだ名:わたさん
Twitter:@ae14watanabe 
CTO室研究開発チーム(ペパボ研究所) 研究員。博士(情報工学)。研究面での関心は機械学習と情報可視化を組合せた意思決定支援。最近ハマっていることはスターウォーズ(特にドラマシリーズ)を見ること。

就職するなら、研究職よりエンジニアの方がいいかもしれない。悩みながら始まった就職活動。

ー博士号を取得してみて率直な気持ちを教えてください。

わたさん:
取るまでかなり時間がかかったので「やっと取れたな」とホッとした気持ちです。

あとはペパボのパートナーの皆さんから祝福していただいたのが非常に嬉しかったです。ペパボ研究所(以下、ペパ研)の所長を務めるCTOのあんちぽさんがSlackの全社共有チャンネルで私の博士号取得のお知らせを書いてくださったんです。たくさんクラッカーとかお祝いのリアクションがついたので、すごくビックリしました。

社員証にも博士号取得者マークがつきました!

ー具体的には博士号取得までどれだけかかったのですか?

わたさん:
博士前期課程から数えると6年かかりました。所属していた大学院の博士課程は、2年間の博士前期課程と3年間の博士後期課程に分かれているのですが、自分の場合は後者が1年伸びた形です。最後の1年はペパボに入社して社会人学生として過ごしました。

ーそもそもわたさんが博士課程に進学しようと思った理由を教えてください。

わたさん:
はい、大きく二つあります。一つ目はもっと研究したい、という気持ちが強かったことです。そもそも私は高専の専攻科で学士号を取って、大学院でより高度な機械学習の研究をしたいと思い、ひとまず修士号の取得を目指して博士前期課程に入りました。

実際に入ってみると、意外と研究に費やせる時間は少ない、と思ったんです。博士前期課程で研究を終えると、研究テーマの立ち上げから修士論文の執筆まで2年しかないんです。なおかつその間に就活もしないといけないと。しかも実際に研究を始めてみると、勉強しなければいけないことが山のように出てきて、とても2年では足りないと思い、博士後期課程に進みました。

あともう一つ、当時は高専の先生になりたいという気持ちがありました。教育寄りでアカデミックなキャリアを築けたらと思っていたので、博士号は必要だと思っていました。

ー博士後期課程は3年が目安で、2年目から就活が始まると思うのですが、何か心境の変化がありましたか。

わたさん:
進学当初とはだいぶ変わって、企業で機械学習に関わるエンジニアやデータサイエンティストに興味がありました。高専の先生という仕事については、情報取集をしていく中で自分には性格的に向いていないかもなと思う部分があったり、企業に就職した後でも遅くないと考えたりしました。

ー研究職につくことは考えなかったのですか。

わたさん:
当時は研究職よりもエンジニアの方がいいのかなと思っていました。

大学院で研究を始めて思ったのが、勉強はすごく好きだし向いているけれど、研究に求められる、新しいものを自分で一から生み出すことや、未知の領域を一から自分で開拓することは、向いていないかもしれないということでした。だから研究職は無理かなと。

今から思うと、だからエンジニアというのはおかしいと思うんですけどね…エンジニアにもそれらは求められる資質だと思うので本当に甘い考えでした(笑)

職種ではなく「この人たちと一緒に研究がしたい!」と気づいたインターンシップ。

ーインターンシップはどのくらい参加しましたか。

わたさん:
3社です。他にもたくさん応募はしたんですけど、通ったのがその3社でした。3つのインターンのうち、1つ目はペパ研で研究員として、2つ目はWeb系の会社でデータサイエンティストとして、3つ目は機械学習系のスタートアップで機械学習エンジニアとして、という内容でした。

ーエンジニア、データサイエンティスト、研究職とさまざまな職種を経験したと思うのですが、どの職種が向いていましたか。

わたさん:
複数のインターンを経験しても、自分がどの職種が向いている、向いてないというのは正直よく分からなかったんです。でも入社したい会社を選ぶ最終的な決め手は、職種への向き不向きよりも、その会社やチームで働きたいと思えるかどうかだな、と思うようになりました。

その中で、ペパ研のチームの皆さんと働きたいと思ったんです。

ーなるほど、一緒に働く人が大事ということに気付いたんですね。

わたさん:
結果、そうなったように思います。最初は貴重なデータを収集できる事業を持っている会社がいいとか思っていましたが、人や、その人たちが作っている文化が大切だと思うようになりました。

ペパ研では、アカデミックな水準で認められる研究開発により「事業を差別化できる技術」を生み出す、というミッションがあります。

それに向けて、もともと研究職ではなかった方々が、一から研究を立ち上げて、企業成長に繋げながら、ジャーナルに論文を投稿して掲載されたり、国際会議で発表したりといったアカデミックなアウトプットをしています。

みんな研究所のビジョンの実現に向けて本気で取り組んでらっしゃるっていうのが、インターンに参加してわかったので、その空気感というか「やっていき」の文化がいいなと思いました。

「どこかで研究したい」というよりは、「ここで研究したい!」という気持ちが強くなったので、研究をもうちょっと頑張ろうと思いました。

ーインターンシップの思い出は何かありますか。

わたさん:
インターンシップでは、minneのログを通してユーザの行動の傾向を分析するということをやりました。

実作業ができる期間は5日程度、自分はWebサービスのデータにそこまで詳しくもない、といった難しさがあったのですが、その中で「どういうアプローチでいくか」を自分で考えて決めたり、「こういう結果が出ました」というアウトプットまでしたりと、自分の裁量でスピード感を持ってやれたことが印象深かったですね。

あとは三宅さんをはじめとしたペパ研の皆さんと、結果を踏まえていろいろとディスカッションできたことが思い出深いです。

とにかくそのディスカッションの熱量がすごくて、社会人の方ってもっとドライなのかなと勝手に思っていたのですが、全然そんなことはなくて、すごく質問してくれるし、ちゃんと理解しようとしてくれるところがうれしかったです。

他にも、大学院での研究内容をおおまかに話したときに「XXって何なんですか?」とラフな感じで質問されて、その後に説明を詳しく聞いてくださったパートナーの方がいて、あとで気づいたんですが、その方があんちぽさんだったんです。CTOってこんなにラフに話しかけてくれて、こんなにちゃんと聞いてくれるんだってビックリしたのを覚えています(笑)。

インターンシップでの発表の様子

博士号取得に向けて再スタート。卒業後も社会人学生を続けようと決意。

ーその後、選考に参加して無事に内定となりましたね。残りの学生生活はどのように過ごしたのですか。

わたさん:
実はペパボのインターンシップに参加していた博士後期課程2年目の夏ごろ、かなり研究がうまくいっていませんでした。何をやっても研究を論文として仕上げる筋道が立たなくて、研究の方向性について指導教員と衝突することもしばしばあるほど、とにかく当時の研究テーマに対して行き詰まっていました。正直、研究をやりたくないなと本気で思うほどでした。

ですが、インターンシップに参加したことをキッカケに「ペパ研で研究するなら、博士号が取れるように頑張らなきゃな」と気持ちが切り替わりました。

そのタイミングで、別の先生から「研究テーマを変更するのはどうですか」という提案をいただきました。そのテーマは現在の博士論文の種のようなもので、そこからその研究を始めて1年で、ジャーナル論文の投稿まで辿り着けました。今までの研究と比べたら物凄く早く進展させることができました。

そういった成果を出せたのは、テーマとの巡り合わせはもちろん大きかったですが、「ペパ研で研究したい!」という気持ちが研究を進める原動力になったからだと思っています。

ーすごいですね!そんな中、結果及ばず3年では博士号の取得が難しいとなるわけですが、いつ取れないことがわかるのですか。

わたさん:
まず2年目の夏までにジャーナル論文の投稿ができていない時点で、「多分3年間で取得は無理だな」と正直思っていました。私が所属していた大学院での博士号取得の最低条件はジャーナル論文が1本掲載されることだったのですが、これには査読で承認される必要があって、そのプロセスに時間がかかるためです。

ただ金銭的な面から、安定した収入のない学生のまま博士後期の4年目に突入するのは難しかったので、就職することを優先的に考えて、博士後期2年目で就職活動を行っていたという経緯があります。

ー研究職でなければ、そのまま退学も考えていたのですか。

わたさん:
はい。要するに博士号を取るためには、就職先で働きつつその傍らで社会人博士学生として頑張らないといけない状況でした。で、2年目の就職先も決まってないときに、それが可能という目算は正直立たなかったです。

もし研究職として就職するなら、取らないという選択肢はないので時間がかかっても頑張るしかありませんが、それ以外の職種であれば、博士号を諦めるか…と思うぐらいにはネガティブな状態でしたね。

ーそこからどんな思いで、社会人学生として頑張ろうと思ったのですか。

わたさん:
社会人学生として研究を続けようと思えた理由は大きく2つあって、1つはペパボから内定をいただいたこと、もう1つは3年目の半ばぐらいでジャーナル論文が投稿できたことです。

もし査読プロセスがトントン拍子に進めば、もしかしたら3年で博士号が取れるかも、と淡い期待を持っていました。ですが、レベルの高いジャーナルに投稿したこともあり、査読で非常に厳しいコメントがつきまして(笑)。でも良い論文が書けているという自信はあったので、ここはそのコメントに何とか対応して、踏ん張るところだよねという話を指導教員としました。ここで諦めて退学するのはもったいないよねと。

ということで3年目が終わった段階で残されていた課題は、査読に対応して承認まで持っていくことと、承認された論文を元に博士論文を書くことでした。正直、会社で働きながら、どれくらい頑張れるかはわからなかったですが、学生も続けることにしました。

本気で博士号を目指して頑張っている仲間がいたから書けた、博士論文。

ー研修後、ペパボ研究所に配属となり、どんなテーマで研究を始めたのですか。

わたさん:
ジャーナル論文で提案していた技術の応用研究を始めました。

配属当初は、ジャーナル論文の研究は、博士号が取れたら終わりでいいかなと思っていました。逆にペパ研の方で、研究して欲しいテーマがあれば、それを進めようと思っていました。

ですが、研究テーマについてあんちぽさんや三宅さんに相談したところ「自分が好きなことや情熱を持てる研究をやった方がいい」と言われました。

ただ、それでもすぐに研究テーマは思い浮かばなくて。そこで、まずは自分ができること、ジャーナル論文の研究や、精通している技術を話したうえで「ペパボだったらこんなことができるね」と言ったディスカッションをペパ研の皆さんとしてみたいと思いました。

そこでジャーナル論文の話をしたら「めっちゃおもしろいね!」といってもらえて。その時が大学以外の方から「おもしろい」と言ってもらえた初めての経験という感じだったので、ちゃんと価値のある研究をこれまでにやってきたんだ、ちゃんと会社でも活かせるんだという自信が持てて、ジャーナル論文の技術をSUZURIで活用してみようと自分で決めました。

ーそこからどういう形で博士号取得まで研究を進めていったのですか。

わたさん:
研修期間中の土日に、指導教員と連絡を取りつつジャーナル論文の査読対応をしていました。追加で実験をやったり。その結果、ジャーナル論文の掲載までこぎつけることができました。

その後、お盆休みに博士論文の第一稿を書いていましたね。ペパボの同期は研修が落ち着いて一息つけるタイミングだったと思うのですが、自分は歯を食いしばって毎日論文と向き合っていました(笑)。

お盆明けのペパ研への配属以降は平日の朝と土日、ときどき業務時間中に博士論文の執筆やその他の作業をしていました。所長のあんちぽさんからは、「博士論文の作業を業務時間中にやるかどうかは、期限を設定し、会社やペパ研にどのような貢献をもたらすかを検討した上で、自分の裁量で決めて良い」と仰っていただいて、このような形でサポートしていただけたのは非常にありがたかったですね。基本的に業務中はペパ研での研究テーマを進めることを意識していましたが、追い込みが必要な時期は、業務中のまとまった時間で取り組むことができて本当に助かりました。

入社したのがペパボでなかったら、博士号取得は確実にもっと遅れていた、もしくは取得を諦めていただろうなと思います。

ーペパボ研究所のメンバーのサポートは何かありましたか。

わたさん:
励ましてもらうなど、精神的な面でだいぶ支えていただきました。

「書けないです」とか「辛いです」といった弱音を吐くこともあったのですが、「とにかく書け!!」「書きさえすれば進捗するから」みたいに、前向きになれるような励ましの言葉を何度もいただきました(笑)。

ペパ研のメンバーのほとんどは博士課程の社会人学生で、それぞれ博士号取得にむけたステージは違うんですけど、一緒に並走してくれている感じが強かったですね。あと、仕事と大学と家庭・子育てなどを全部両立しながら、本気で博士号を目指して頑張っている仲間をみていたら、自分がへばっている場合じゃないって思いました。

ー他にも何かありますか。

わたさん:
ペパ研の「なめらかなシステム」というコンセプトから、博士論文を書く上でとても影響を受けました。

ペパ研で研究をする中で「なめらかなシステム」についてメンバーとディスカッションをしていると、自分の中でもなめらかなシステムの理解がどんどん進んでいったんです。すると自分の博士論文の研究に対して「なめらかなシステム的に見るとどうなんだろう」と考えられるようになりました。ジャーナル論文を書いた時よりも、研究に対してより抽象的な捉え方ができたというか、より大きな研究の世界の地図に、自分の研究を位置付けることができるようになりました。

ーということは、ペパボに入ったからこそ書けた博士論文なんですね。

わたさん:
その通りです。最初は博士論文の執筆を4年目まで持ち越すのがすごく嫌で、やってしまったという気持ちが大きかったです。ですが、今考えるとペパボに入って学んだことを活かして論文が書けたことで、内容も充実して、もう1年プラスしてよかったと思っています。まだ論文自体はオンライン公開されていないんですが、内容についてはスライドで公開しているので、色んな方に見てもらいたいですね。

自分で裁量を持って研究できるペパボ研究所だからできる研究とサービス成長を軸に、アカデミックなアウトプットをしていきたい。

ー今後の研究の意気込みを教えてください。

わたさん:
大学院での研究やペパ研での研究を通して、最近やっと自分の研究上の興味が分かってきたような気がしているんです。それは非常に抽象的な表現だと、人間が情報システムとの対話を通して知識を獲得し意思決定につなげる、そのための人間とシステムのインタフェースを考えること、です。この研究をペパボが得意とするECサイト運営という領域でやっていきたいと思っています。

もちろんその研究結果を、国際会議やジャーナルという形でアカデミックにアウトプットしていきたいですし、なおかつペパボの様々な事業にも展開させて、事業成長にも貢献していきたいです。

ー最後に就活生にアドバイスがあれば教えてください。

わたさん:
私自身が相当苦労したというか、軸を持って計画的に就活できた自信がないので難しいですね(笑) とにかくインターンシップにたくさん参加するといいというのを、まずは伝えたいです!やっぱり実際にその場に身を置かないとわからない雰囲気などがあると思うので。

私のように、研究がうまくいっていない学生の方がいるのであれば、違う環境に行ってみるというのはすごく大事だと思います。ペパボ以外に行ったインターンもすごくいい経験になっていて、博士号を取る自分に求められていることが明確になった気がしますね。

ペパボのインターンシップにもぜひ参加してほしいと思っていて、企業で自分の裁量を持って研究したいという方には、ペパ研は特におすすめです。

博士号を持っている方や、目指している方、研究やりたいーーー!という気持ちの方など、いろんな方とお話がしてみたいので、ぜひ来て欲しいです!

博士論文の研究内容については、スライドを公開しております。こちらもぜひご覧ください。

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