法律事務所の弁護士がIT企業に入社して気づいた新たなやりがい

インターネットサービスを支える重要な役割のひとつに法務の仕事がありますが、その働き方は、なかなかイメージしづらいのが現実です。今回は、法律事務所からペパボのグループ会社であるGMOクリエイターズネットワークのFintech事業部法務チームへ、2019年4月に入社された山田さんと、GMOペパボ取締役CIO・経営管理部部長のまっほーさんに、IT企業の法務の仕事とそのやりがいについてお話を伺います。

野上 真穂(のがみ まほ)
あだ名:まっほー
2009年入社。法務部長を経て、現在は取締役CIO(Chief Integrity Officer)兼経営管理部長。最近ハマっていることは、筋力強化のためのワークアウト。トレーナーには「伸びしろがすごい!」とおだてられている。ストレス解消方法は、都内の住宅街散歩。

山田 友幸(やまだ ともゆき)
あだ名:パパ
2019年入社・Fintech事業部法務チームマネージャー。最近ハマっていることは、3人の子供を一度に運ぶこと(長男をおんぶ、次男を右手で抱っこ、長女(末っ子)を左手で抱っこ)。好きな遊び場はファンタジーキッズリゾート。

弁護士からなぜ? 山田さんのキャリア

ー 山田さんは、以前どんなお仕事をされていたんですか。

山田:約3年間、公設の法律事務所に弁護士として勤めていました。公設の法律事務所には、私設の法律事務所に依頼するのが難しい生活困窮者や困難案件が多く集まるのですが、そういう困っている人たちを救いたい気持ちから弁護士を目指したので、仕事には非常にやりがいを感じていました。

ー では、なぜクリエイターズネットワークの法務に?

山田:実はプライベートな事情で急遽福岡へ引っ越すことが決まったんです。ちょうどその頃、高校の同級生であるクリエイターズネットワークの副社長・次松さんから、「新規事業を立ち上げるから一緒にやれへん?」と声をかけられました。非常に魅力的な内容ではあったのですが、企業法務の経験がなくIT分野の法律も扱ったことがなかったので役に立てないのではないかと考えて最初はお断りしていたんです。それでも「法律のスペシャリストが必要だ」「福岡にもオフィスがあるので福岡に行ってからも続けてほしい!」とまで言ってくれたので、微力ながら一助となることができればと思い入社を決めました。

ー IT企業において法務のニーズは高まっているんでしょうか。

野上:弁護士などの法律のスペシャリストがいると、新規事業をはじめるときのリスク把握や外部との交渉がスムースになるなどサービスの成長にも有利なことから、IT業界全体として非常にニーズが高まっています。山田さんと同じように弁護士のキャリアを経て入社を決めた方が、GMOインターネットグループにも数名いますね。

気になるIT企業の働き方

ー IT企業の法務の仕事について、教えてください。

野上:各サービスの法律相談への対応、各種審査、会社法や金商法が関連するようなコーポレート・ガバナンスにまつわる業務のほか、事業譲渡等のいわゆるM&Aやその後の社内体制の構築なども含めて担当しています。契約書や利用規約の作成等のほかにも、新規事業や新規機能の追加に伴って、法律構成をふまえた提案をしたりインシデント対応やクレーム対応の見直しなど、サービスや案件ごとにやるべきことも全く変わってきます。

ー 山田さんは、入社されてからどんな仕事をしているんですか?

山田:クリエイターズネットワークの新規事業である「FREENANCE(フリーナンス)」を中心に、法的問題点の調査、契約書や利用規約の作成、許認可事業の申請手続等を担当しています。法律事務所での仕事は裁判がベースになるので1カ月単位で動くことが多かったのですが、今は締切が数時間後なんてこともあるので、スピード感に圧倒されています。

野上:私も10年間ペパボで働いていますが、ものすごいスピードで次々と新しい仕事がくるので、いつも追いつくのに必死です。でも走っているうちに、次々に情報や知識がつながって、新しいことにチャレンジしたり、常に新鮮ですね。

山田:そういう意味では、ひとつの仕事をどっしりとかまえてこなしたい人には、IT企業の法務は難しいのかもしれません。

ー ITに関して、もともと知識はありましたか?

山田:いえ。ほとんどありませんでした。なので、あたりまえのようにSlackで会話したり、多様なコミュニケーションツールを使いこなしているみなさんのITリテラシーの高さには驚いています。

ー 過去の経験がどんなふうに業務に活きているか具体的に教えてください。

野上:私の場合「裁判と会社の会議が似ているな」と感じることが多くあります。裁判は論理だけでなく、事実を分かりやすく説明する力やパフォーマンス的な要素も少なからず必要で、それが会社で仲間を説得する場面にも必要だと感じます。逆に会社でよく言う「結論ファースト」は、裁判の場面でも活用できそうですがどうなんでしょう。

山田:たしかに、分かりやすく伝えるというのは弁護士にとって必須のスキルですね。私も、今までやってきたことが無駄ではなかったと思う場面が多くあります。全く知らないITに関する相談でも、法律を調べて交渉して…。過去に培った法的な思考方法が活かされているという実感があります。

ー弁護士時代と変わったことで、気になっていることがあれば教えてください。

山田:あえて言うならば、裁判所へ通う回数がすっかり減ってしまったので、裁判業務から離れていく不安があります。

野上:訴訟案件は職人的なスキルも必要なので、ブランクがあるといざ必要なときに力を発揮できるか、不安になりそうですよね。

山田:ただ勉強会などで、企業内弁護士から法律事務所弁護士に戻っても支障なく業務をこなしている先生の実例を伺ったことがあるので、そんなに悲観的になってはいないです。今すぐに法律事務所に戻りたいという気持ちがあるわけでもないですし。今まであたりまえだった仕事が減ったことで、少し違和感があるだけかもしれません。

頼られる嬉しさ、仲間がいる頼もしさ

ー 業務でやりがいを感じる瞬間は?

山田:2つあります。ひとつめは仲間に頼られること。「企業の法務=会社員」のイメージが強かったので、これまでやってきた困っている個人の救済ができなくなると思っていたんです。でも実際は違いました。目の前の困っている仲間を助ける構図は、弁護士のときの役割とほとんど同じなのです。弁護士時代は常に孤独に仕事をしていたので、周りの仲間を助けられるのは、これまでにない喜びを感じます。
もうひとつは、自分の仕事が社会に変化をもたらす可能性があること。法律の面から事業や企業の成長に寄与することで、結果的に多くの人の生活や社会のルールを革新的に変えられる可能性があります。また、事業に対してコミットするということは、個人としての手応えから遠いイメージが強かったのですが、実際に関わってみると、非常にやりがいを感じられて、弁護士のときには気づかなかった新しい希望を感じられます。

野:私も同じような想いをもっていたので、とても共感します。何のために法律を勉強し始めたかというと、困っている人を救いたいから。でも勉強しているときは「企業=権力側」というか…「企業は個人と相反するもの」というイメージがあって、そこに加わることは、あまりポジティブな印象ではありませんでした。
でも実際に企業に入ってみると、自分の持っている法律的な知識や経験を仲間が頼りにしてくれて、元々持っていたイメージとは違った喜びに出会えました。特にペパボは、個人のクリエイター向けサービスが多いので、直接的なユーザーとの関わりは少なくても、サービスを通してより多くの人たちの役に立っている実感が大きいです。

サービスを支える立場としての新しいルール作りへの挑戦

ー これからどんな仕事に挑戦したいですか?

山田:法律の力で、問題となるものを避けたり、違う方向を提案したり、乗り越える方法をつくるのはもちろん、サービスや企業の方向性意思決定まで携わっていけるような、判断を委ねられる役割を目指していきたいです。

ー まっほーさんはいかがでしょう。

野上:今までの法務の仕事からさらに一歩進んで、事業やユーザーさんのことをもっと深く考えるチームを目指していきたいです。例えば、新しい事業の挑戦に対して、どういう法律やルールを改善したらペパボの事業だけではなく業界全体を良い方向へと導けるか、IT業界のルールそのものを変革する動きができるチームへとシフトしていきます。

ー 最後に、どんな人と一緒に働きたいですか。求める人物像を教えてください。

山田:柔軟性のある人と一緒に働きたいです。IT企業で活躍するには、知識の量や技術よりも、困っている仲間の相談に向き合い、何でも自分ごと化できる人が向いているんじゃないでしょうか。そのようなマインドをお持ちの方であれば、企業法務の経験がなくても全く問題ありません。法律事務所からIT企業への転職を考えている方へは、企業に入っても困っている人を救うことはできるということ、一人じゃないからこそ広がる可能性があるということを、強く伝えたいです。

野上:私も、知識よりもリーガルマインドを使って問題解決できる人と一緒に働きたいです。企業の中にいるということは「これを実行すればこれが実現できます」と回答を用意するだけでなく、その課題を自分ごと化して「さらにこれを実行したら、こんなことができます」と先をいく実現力が求められてきます。そのための決まったやりかたがあるわけではなく、法律の考え方を活かしてサービスの中に入って、何でも実践しながら策を見出していくしかありません。
法律は、あくまで説得の技法であり問題解決のやりかたのひとつ。法律にはそれこそ何百年もの人類の叡智が詰まっているので、それを上手く使えば、テクノロジーや世の中の進歩を大きく後押しすることもできます。そういう希望とミッションにやりがいを感じてくれる人に、仲間になってもらいたいですね。