デザイン経営を導入し、デザインの力でイノベーションを起こす!CDO就任インタビュー

2020年3月に行われた第18期 定時株主総会にて、デザイン業務全般に関する全社的な戦略の策定・実行を目的としたデザイン部の新設が承認され、新たに執行役員 デザイン部長 兼 CDO(Chief Design Officer)として kotarok さんが就任されました。
今回はこれまでの取り組みと、今後の展望についてお話を聞きました。

小久保 浩大郎(こくぼ こうたろう)
twitter: @kotarok
あだ名:こたろっく
bA、iA などのデザインエージェンシーからGoogle、CAMPFIREを経て2019年よりGMOペパボにジョイン。2020年4月より執行役員CDO兼デザイン部長として全社的なデザインマネジメントを担っている。CDO就任がリモートワーク体制下であったためこの写真は自宅での自撮りで、実は下はスウェットを履いている。

デザイナー全員でつくった、デザインへの期待

ーまずデザイン部設立と、執行役員就任、おめでとうございます!

kotarok:ありがとうございます。

ー今の率直なお気持ちをお聞かせいただきたいです。

kotarok:こういった辞令があると、「おめでとうございます!」という言葉をよくいただいてありがたいのですが、僕がその言葉を受け取るのに少し違和感があるんです。

実は数年前から「2020年には、経営ポジションにデザイナーが参画する」という目標を、社内のシニアデザイナーたちが作り、ロードマップを引いて、さまざまな取り組みをしてきました。

そのため今回の辞令は、僕個人が期待されているわけではなく、ペパボが「デザインに対して投資していくぞ」「デザインという資産を活用して、会社をより成長させるんだぞ」という期待の表れで、その期待は誰が作ったのかと言ったら、僕たちデザイナー全員で作ったものなんですよね。なので、おめでとうという言葉は、ペパボのデザイナー全員に対しての言葉だと受け取っています。

ー執行役員については、どういった形で打診されたのですか。

kotarok:3月頃、突然社長のケンタロさんと1on1が設定されました。

事前に内々の話はいただいていたので、「これはその話かな」と思いつつ、1on1がはじまると、ケンタロさんが普段あまりしない世間話からはじめて。笑 アイスブレイクしたあと、「執行役員をやってくれないか」と言われ、「はい」とお受けしました。

「やっていき・のっていき」の文化が浸透しているからこそ、みんながついてきてくれた

ー今 kotarok さんがご入社されて1年ちょっとになると思うのですが、どんなことを意識してさまざまな取り組みをされてますか。

kotarok:僕が入社当初から思っていたキーワードに『納得感』というものがあります。

まずデザイナーが、仕事の依頼に対して“やらされている” という状況にならず、「これはやるべきだし、やる意味がある」と思えて、“やろう”と思える納得感をつくること。

そしてデザイナーに仕事を依頼する側や経営メンバーから見て、デザイナーの仕事に対して「なるほど、これはこういう意味があって、こうなるから良くなる」という納得感。

そういった双方向からの納得感がある状態をつくろうと思っていました。

ーなるほど、具体的にどのようなことを行ってきたのですか。

kotarok:まず自分たちデザイナーの仕事の言語化・構造化を行いました。

自分たちの仕事は、どういうことをやっていて、それがどういう構造の中で、どういう意味を持っていて、何のためにやってるのかを言語化・構造化し、みんなに共有しました。

もう1つはデザイナーの専門職職位であるシニアデザイナーに対して、求めるレベルを詳細に再定義し期待値をグッと上げました。

最初ちょっと厳しいかなと思ったのですが、むしろ期待がクリアに設定されたことで、成長が加速したし、みんなすごくポジティブに取り組んでくれて素晴らしいなと思いました。

ーたしかに、再定義を行うと批判やネガティブな印象を受ける方は出てきそうですよね。

kotarok:そうですね、僕もそういうリスクを考えていたのですが、実際にはネガティブな反応はほとんどなく、みんな再定義された期待に合わせて自身をアップデートするために努力してくれて、本当にありがたかったです。

けどそれってペパボの文化の1つである「やっていき、のっていき」が浸透しているから、みんなのってきてくれたと思うんですよね。そういうアクションに対して、のっていきが発揮できるって、めちゃくちゃ強い組織だと思いましたね。

社内デザイナーのナレッジシェアの場として開催されている Designer’s MTG

ゲリラ的なアクションで、ブランド推進の意識を一気に形成!

ーほかにもなにか、取り組んだことはありますか。

kotarok:ペパボがデザインを経営により活かしていくためには、何が足りないのかと考えた時に、僕はブランドの扱いがうまくないと思いました。

しかし歴史を紐解いてみると、ペパボはブランドをうまく活用していた企業だったんですよね。

たとえば創業のサービス、「ロリポップ!」は、お堅いビジネス向けしかなかったレンタルサーバー市場に低価格なプライシングと親しみやすいネーミングやキャラクターを持ち込む、といったマーケティングとブランディングの組み合わせの妙によって、大ヒットしたサービスです。

ただ、そのような成功したブランディングがすごく戦略的に論理的に行われていたかというと実はそうではなくて、属人的な才能や個性によってなされていたというのが実情でした。時間の経過とともに人が入れ替わり組織が変わる中で、我々はブランドの扱い方のうまさを失ってしまったのではないかと感じました。 

なので、僕がやらなきゃいけないことは、ペパボがまたブランドをよりよく扱え、それを我々の資源として活かせるようにするというブランドの再強化なんだと見出しました。

ーブランドの再強化、どんなことからはじめたのですか。

kotarok:まずは「ブランド」という言葉の意味を正しく理解してもらうことと、今後ブランドをうまく扱うことによってペパボの成長の材料にできるんだ、という意識を社内に浸透させることから始めていきました。

ブランド、ブランディングという言葉は、近年非常に普及してさまざまな人が気軽に使うようになった一方で、本当はどういう意味なのかを知らない方が多いと感じていました。

昨年11月に「Pepabo Growth Camp」というマネージャー以上の役職者を主な参加者とする管理職合宿が行われました。

その中で振り分けられたテーマについてグループディスカッションを行って発表するという機会があったのですが、僕が振り分けられたチームのテーマは「ブランディング」だったんです。これはチャンスだと思い、本来はそこでのディスカッションを元にするところを、すでにまとめてあったブランドについてのスライドをチームメンバーに見せて「今日この話を発表したい」と相談し、さらに5分の発表時間では足りなかったため、前後のチームに発表時間を一部譲ってもらう交渉を行い、僕だけ15分くらい話しちゃいました。笑

昨年の Pepabo Growth Camp での発表

ーす、すごいですね…!

kotarok:本当はちゃんと場をもって話をしないといけないなと思っていたのですが、なかなか時間がつくれていなかったので「やるなら今しかない」と思ってゲリラ的なアクションに出ました。

ブランドとはなんなのか、ペパボにおけるブランドの今とこれから、我々はどういうアクションをしなければいけないのかという話をしたら、すごくポジティブな反応をいただいて、 みんなの中に「ブランディングをやっていかなきゃいけない」という意識を、一気に形成することができました。

またそのとき一緒に参加していたプリンシパルデザイナーのshoさんが、僕の発表を録画してくれていたので、その後社内でブランドの話をする際の教材として僕のプレゼン動画も各所で出回っています。

kotarok:ただブランドとはなにかや、僕たちのブランドってどういうことかのような、概念上の定義をしただけでは、なにもはじまりません。

定義されたブランドを、どうやって実装していくかというところが非常に大事になっていきます。

その手段として僕たちはデザインシステムを活用しようと思って、昨年から開発に取り組んでいます。

ーデザインシステムというのは、一般的な言葉なんですか。

kotarok:近年では一般的な言葉ですね。同じような業界のデザイナーが聞いたらすぐにわかる言葉です。他の会社でも取り組んでいるところは多いんじゃないでしょうか。ただペパボでのアプローチは普通とは少し違っているかも知れません。

まずカラーパレットの定義・開発と、タイポグラフィーの定義に取り組みました。この辺はごく普通ですね。次にそれらを利用して決算説明会用の資料などの、外部コミュニケーション向けスライドテンプレートの開発から着手しました。一般的にはプロダクトのUIコンポーネント開発などから取り組んでいくケースが多いかと思いますが我々はスライド資料から始めたんですね。

開発したデザインシステムの一部

というのもデザインシステムは作るのも難しいですが導入するのもまた難しい部分なんです。なので自分が1番コントロールがきくところから導入していくのが確実だと考えていたので、僕がマネージャーを務めるコーポレートデザインチームの仕事の中で開発・導入を行いました。

次に手を付けたところも特徴的だと思います。ペパボのデザイナーの仕事には「コミュニケーションデザイン」という領域も定義されているのですが、当然ながらコミュニケーションにおいて言葉というのは重要なピースとなります。

なので、ライティングガイドラインとして用語や言い回しの整理、表記ルールの制定などを行いました。またガイドラインだけでは使いにくいのでこれを自動でチェックする校正ツールの開発も行っています。そしてこれらをデザインシステム開発の一環として取り組んでいます。

ペパボで働くパートナーはみんなデザインをする人

kotarok:ほかにもデザインプリンシプル(デザイン原則)というものもデザインシステムの一部として定めています。

これは我々のデザインがどういう原則に基づいてなされていくかという指針なんですけど、バチっと決めることが難しく、半年以上かかって先日ようやく10項目のデザインプリンシプルという形にまとめることができました。

こちらも社長のケンタロさんやCTOのあんちぽ君に見せて説明したところ「なるほどー」「すごくいいじゃないですか」と納得してもらえ、実際に業務の中で使い始めているのですが、その中でも良いフィードバックをいただけているのでこれからどんどん活用と浸透を進めていくところです。

kotarok:またテックカンパニービジョンという、全62ページの文書が昨年末に社内に公開されまして、基本はあんちぽ君が書いたのですがデザインについての章は僕が書いています。

その中で「デザインとは、ある目的を達成するために物事を形作ること」と定義しています。ポイントは「もの」だけでなく「こと」もデザインする対象としているところです。

我々がペパボの企業活動を行っていくうえで、プロダクトのような制作物だけでなくそれにまつわるさまざまな「こと」を含んだサービスがどのようであるべきかを考えたり、意思決定をすることは、まさにデザイン行為なんですよ。それってデザイナー以外もみんなやってるじゃないですか。なのでペパボで働くパートナーはみんなデザインをする人なんです。

その中で、なにを判断基準や指針として考えなくてはいけないか、というのをまとめたものがデザインプリンシプルなわけです。

インベンションとイノベーションの橋渡しをするのは、デザイン

ーデザインの話に戻るのですが、ペパボのサービスはどれも個性が強くて、その個性を活かして、ペパボというブランドを作っていくのは、すごく大変なんじゃないかと思っています。工夫されている点などはありますか。

kotarok:そうなんです。ペパボはマルチサービス・マルチブランドの企業なんですよね。

そしてそれぞれのブランドの個性が強くその世界観がロイヤルティを獲得しているというポジティブな面もある一方、個々の独立性が非常に高くてシナジーを生めていないという面もあります。

ただこの現状が単純に良い悪いということではなく、それらをペパボの経営資源として最大化していくためにどうデザインしていくかが、僕のこれからやるべき大きな取り組みだと思っています。

ー今後やっていきたいことの話が出たのですが、他にも何か取り組んでいきたいことはありますか。

kotarok:デザイン経営の導入と実践です。

一昨年経済産業省と特許庁が、デザイン経営宣言というドキュメントを公開しています。

その中でデザイン経営の効果は、「ブランド力向上」と「イノベーション力向上」の2つと言われています。

ブランドに関しては、先に述べたようにさまざまな取り組みを始めています。

イノベーションについて改めて説明します。たとえば、ペパボには「ペパボ研究所」という研究部門があります。その中で基礎研究を行い、新しいビジネスの種となるような成果を生み出すこと、これはイノベーションではなく、インベンションです。

その成果を実用可能な形で実装し社会に普及させ、我々の生活が豊かにすること、これがイノベーションです。

では、インベンションとイノベーションの橋渡しは何によってされるのかというと、実はそれがデザインなんですよね。

ペパボには要素技術の研究所はすでにあるし、エンジニアリングも強い組織に育っているので、それを意味のある価値として社会に届けるイノベーションを今後ペパボは加速していく、そのためのデザインであるということですね。

専門性の高い、尖ったところをもっている人と働きたい

ー今後、どんな方と一緒に働きたいですか。

kotarok:専門性の高い人、尖ったところをもっている人に入っていただきたいと思っています。

ペパボ全体だと現在40名ほどのデザイナーが働いています。一見十分な人数がいるように見えるのですが、ペパボではサービスごとに縦割りの事業部制をとっているため事業部単位では10名以下になってしまうため、どちらかというとジェネラリストが求められてきました。

ただ、今はあらゆる企業がIT化して競合がどんどん増えていく世界です。その中で小さい縦割りのジェネラリスト組織だと、競争力を維持できなくなると思っています。

もちろんジェネラリストが悪いと言ってるわけではないし、そういう方は絶対必要ですが、サービスの質を今より数段レベルアップさせるためには専門性の高い尖った人にも来ていただきたいですね。

ただ専門性の高い人を多く迎えた場合、お互いの領域外のことに対する興味が薄く、尊重しあえない、理解しあえないといったことになってしまうこともあるのですが、ペパボは「わたしたちが大切にしている3つのこと」という企業文化が根付いています。

僕が入社して驚いたことは、わたしたちが大切にしている3つのことが、お題目ではなくちゃんとパートナーに理解され、実践されていることです。

この文化があれば、今後専門性の高い方にご入社いただいても断絶のようなリスクは避けられると思っています。また、すでに分野として成立している専門性以外でも個人が持つ強みというのはそれぞれあります。ちなみにこれまではジェネラリスト志向だったといいましたが、それは組織がデザイナーにそのような期待をしていたということです。実際はみんな本当に個性豊かでさまざまな強みを持っています。こういった強みをうまく組み合わせ、大きな成果を生み出す組織へと成長させていくことが僕のミッションです。