「Rubyは一人で書いているんじゃない。」Rubyコミュニティ運営の裏側の話

明日、9月9日〜11日でRubyKaigi Takeout 2021が開催されます。ペパボでは各種技術コミュニティへの支援を積極的に行っていることから、今回はRubyコミュニティの運営に精力的に携わっている二人にお話を聞きました。

自己紹介

近藤 宇智朗(こんどう うちお)
あだ名:udzura
Twitter:@udzura
技術基盤チーム シニアプリンシパルエンジニア。最近自慢したいことは、風来のシレン5plus(switch版)の一番難しいダンジョン「運命の地下」を踏破したことです。

小林 智恵(こばやし ちえ)
あだ名:cobachie
Twitter:@co_bachie
SUZURI事業部プロダクトチームエンジニア。柴犬と一緒にくらしています。

初めてのコミュニティ参加。同じ悩みを話せる仲間が増えた 

ーまずお二人の自己紹介をお願いします。

udzura:
技術基盤チームの近藤宇智朗です。インターネットでは「udzura(うづら)」と呼ばれております。

元々全社で利用される基盤を作っていたのですが、2020年からは特に全社のデータ基盤の構築に携わらせてもらっていました。2021年には正式にデータ基盤チームが発足したこともあり、データ基盤チームのテックリード的な動きもしています。

現在は、GCPやBigQuery、ワークフローエンジンの開発などの仕事をしています。今日はRubyのコミュニティの話ですが、最近はPythonも結構書いています。

cobachie:
SUZURI事業部のプロダクトチームのエンジニアの「cobachie(こばちえ)」です。主にサーバーサイドのRailsを使った実装をやっています。

ーありがとうございます、お二人が今運営に携わっているRubyコミュニティについても教えてください。

udzura:
僕は福岡に移住して以来「 Fukuoka.rb 」というコミュニティを、運営しております。Fukuoka.rbは、福岡でRubyに興味がある人たちが集まる場を作ろうという目的でスタートし、コロナ禍以前は、定期的にオフラインで集まっていました。

今はDiscordなどを使ってオンラインで定期的に集まっています。普段はもくもく会形式でその場にきて作業をしたり、いろいろお喋りをしたりしていますが、Fukuoka.rbのメンバーがスタッフとなり、カンファレンスやLT大会などイベントを開催することもあります。

ーcobachieさんもお願いします。

cobachie:
私が今主に携わっているのは「 Rails Girls Japan  」のコミュニティです。Rails Girlsとは、女性を対象としたプログラミング初心者向けのワークショップなどをやっているコミュニティです。

今はコロナ禍でワークショップのイベントは開催できていないのですが、ゲストによるキーノートや一般公募よるLTを行うRails Girls Gathering Japanというイベントをオンラインで開催したりしています。

他にもRails Girlsは月イチで「More!」というオンライン勉強会を開催しています。Rails Girls Tokyo, More!や、Nagoya, More!、Nagano, More!、という感じで地域ごとに勉強会を開催していて、私はNagano, More!の運営を行っています。

2021/8/28に開催したRails Girls Gathering Japan 2021の様子

ーお二人が初めてRubyコミュニティに参加したきっかけを教えてください。

udzura:
僕はRubyが好きで、Rubyを書きたくて二つ前の会社に転職したのですが、入ってみたら意外と会社にRubyを好きな人がいなかったんです。だったら勉強会行ってみようと思って、最初に参加したのが2011年2月に開催された東京Ruby会議05です。

そこに行って、変な話かもしれないですが「Rubyって、一人で書いているんじゃないんだな」「あったかい言語だな」ってすごく思ったんです。これまで自分一人でRubyを書いていて自信がなかったのが、すごく勇気をもらえました。

それと同時に、僕と同じようにRubyを一人で書いている人って、まだまだたくさんいるのではないかと思いました。Rubyに関わる人たちに対して何か恩返しできないかなと思って、Rubyのことをもっと深く調べたり、OSS活動をしたり、当時は東京に住んでいたのでAsakusa.rbに参加したりした、というのが始まりです。

ーFukuoka.rbはどんなきっかけではじめられたのですか。

udzura:
2013年に福岡に移住してペパボに転職しました。当時、福岡のRubyコミュニティは活動休止状態だったのですが、翌年の2014年に「もう一度Fukuoka.rbをやりませんか」と近隣の会社のRubyistに声がけしていただきました。僕も「福岡でもRubyを盛り上げたい」と思って、ペパボだけでなく近隣の会社の人たちも巻き込む形で再開しました。

Fukuoka.rbの常連メンバーは5,6人いるのですが、皆さんお子さんがいたりと、自分の時間がなかなか取れない方も多いので、なるべく省力運用で、細く長くやろうという気持ちで運営しています。

具体的には月に2回程度Meetupを開催して、イベントも自動で作成されるようにしています。他のことはめちゃくちゃ気持ちが盛り上がるまで無理しない。この方針のもと、7年間続いています。

ー初めて参加した東京Ruby会議05の際に「一人で書いているんじゃない」と感じた部分について、もう少し詳しく教えてください。

udzura:
東京Ruby会議05は、トークセッションが日本Rubyの会の会長である高橋征義会長のトークだけで、あとは分科会形式で、それぞれのテーマについてみんなで話す、という少し変わった形式でした。

その時にRSpecの話や、「Railsで、当時流行っていたソーシャルアプリで使うにはどうしたらいいですか」や、「初めてRubyを触ってみた時どうでしたか」といった話をしました。

その時、初めてRubyの話をたくさんできたんですね。そういう体験が自分にとって新しくて、「Rubyの話をするのって楽しいな」と思いました。いろんな人とRubyのことを話せたことで、やっぱりRubyって一人で書いているんじゃないんだなと思えました。

だからもしこの東京Ruby会議05が、トークセッションがメインの形式だったら、今はもう少し違ったコミュニティとの関わり方をしていたかもしれないです。

ーcobachieさんが初めて参加したRubyコミュニティの話を教えてください。

cobachie:
私は長野県の松本市に住んでいるのですが、県内のコミュニティってあまりなくて。猛者たちが集まっている技術コミュニティがあるのは知っていたのですが、Ruby初心者の私がそこに行くのはどうかなーという気持ちがあった時に、Rails Girlsというコミュニティがあると知りました。直近のイベントを探したら、Rails Girls Nagoyaがあったので、参加者として申込みをしました。

ですが、プログラミング初心者ではなかったので「スタッフとして参加しませんか」と声をかけていただいて、Rails Girls Nagoyaにスタッフとして参加したのが初めてのコミュニティ参加になります。

第1回 Rails Girls Naganoの様子

cobachie:
その時にオーガナイザーの方が、初めてRails Girls Tokyoに参加したのがきっかけで名古屋での開催を決めたとおっしゃっていて。で、私もこれをきっかけに長野での開催を決めました。Rails Girls Naganoでは、名古屋での運営メンバーも参加してくれました。

そうしていくうちに知っている方も増えて、次はRubyKaigiやRubyWorld Conferenceにも参加してみようとなり、そうするとまた知っている方が増えて…という体験を重ねて、ここまで続けてきました。

ーRails Girls Japanの運営にはいつから本格的に関わられるようになったのですか。

cobachie:
広島で開催されたRubyKaigi 2017の時に声をかけていただきました。

ーその時の気持ちって、率直にどうでしたか。

cobachie:
RubyKaigiのドリンクアップで「入ればいいんじゃない?」って軽い感じで言われて。

興味はあったので「え、入っていいんですか?」と言ったのですが、みんなお酒を飲んでたので、内心「ノリで言ってるんじゃないかな、酔いが醒めた時にもう一度確認しよう」と思っていました。

そうしたら後日「Rails GirlsのAboutページに追加するpull requestを作るから、もしOKだったらマージしてください」と言ってもらえて。なので、マージして無事に入ったという感じです。ちゃんと覚えていてもらえました。笑

自分の住んでいる街に、世界中からRubyistが集まったらすごく嬉しい

ーudzuraさんは福岡で開催されたRubyKaigi 2019、cobachieさんは現地での開催はできなかったのですがRubyKaigi 2020のローカルオーガナイザーも務めていましたね。大変だったエピソードはありますか。

udzura:
福岡で開催されたRubyKaigi 2019では、福岡市と綿密に協力していたので関係者を繋げたり、川端商店街で開催した懇親会などの調整を行いました。

これまでRubyKaigiに参加する時は飛行機での移動が必要となっていましたが、正直飛行機はあまり得意ではないので「地元開催だったら便利だよな」と思って、軽い気持ちでオーガナイザーの松田さんに声をかけました。

なので、あまり覚悟なくはじめたので、実際にローカルオーガナイザーやるぞとなった時は、単純にやることが多くて大変でしたね。

RubyKaigi 2019の様子

ーコミュニティやイベントの運営は、調整ごとや打ち合わせなどが多く、コードを書くのとは違う種類の仕事だと思っています。また、私の勝手なイメージなのですが、エンジニアの方ってコードを書くことの方が好きな方が多いと思うのですが、それでも運営に携わるモチベーションを教えてください。

udzura:
いやー、その通りなんですよ。僕も調整するよりコード書く方が好きで、まさにそういうタイプのエンジニアです。

とは言いつつも、僕はRubyKaigi 2019の他にも、2017年に参加者100人規模で開催された福岡Ruby会議02という、地域Ruby会議の実行委員長も務めていました。

なんですかね。一つは単純に当日になってみれば楽しいから「やっちゃおうぜ!」という気持ちがあります。もう一つは、「福岡のことを知ってもらいたい」というのがあります。イベントを開催すると、いろんな地域からRubyistが来てもらえます。僕はやっぱり福岡が好きだし、すごくいいところだと思うので、その良さがたくさんの方に伝わればいいなと思っています。だから「当日も楽しいし、ついでに福岡も好きになってくれたら嬉しい」という気持ちで頑張れたというのはありますね。

あとコードを書くわけじゃないですけど、イベントのオーガナイズって「設計」なんですよね。

設計して、これとこれを組み合わせて、必要な材料を集めて「実装」するので、プログラミングが得意な方だったら、イベントも上手に運営できるじゃないかと思っています。

時間がない中での調整は大変だったりしますけど、どんどん材料を集めていくこと自体はそんなに苦ではなかったです。

cobachieさんは、どんなモチベーションで運営に携わっているんですか。

cobachie:

私の場合は、自分で松田さんに松本での開催を誘致したというよりは、島根のRubyWorld Conferenceに行って松田さんとご飯を食べている時にRubyKaigiの開催地候補の話題になって、松本の話をしたら「まず“まつもと”って名前がいいですね」って言われました。笑

とは言え、これまでのRubyKaigiが京都、広島、仙台と大きな都市での開催だったので、さすがに松本はないだろうなみたいな気持ちでいてその時は特に誘致の話はしませんでした。

その後RubyKaigiで仙台に行った際、また松田さんに会って松本の話をしたら「やー、やっぱり名前がいいですね!ぜひ実現したいですね!」ってもう一度言われて「あれ、これは可能性あり?」って思って。

そこから地元に帰って、いろんな方達のアドバイスをもらい、松本観光コンベンション協会に聞いてみたりして話を進めて行きました。

モチベーションって言うと、さっきudzuraさんは「コードをがっつり書く側の方」という話をしていたのですが、私はどちらかというとそうではなくて、「そういう人たちの話を聞くのがすごく好きな側の方」なんです。

udzuraさんは運営もされていますが、コードをがっつり書きたい方には書いてもらうのがいいので、私はそのお話を聞く場所を作るお手伝いができればと思ってやっています。松本で開催するというのも、もともとコミュニティがあまりなかった自分の住んでいる街に、世界中からRubyistが集まったらすごくいいなぁと思ってやっていました。

ありがとうございます、松本での開催、実現させたいですね。

udzura:
僕も、松本行きたいです。

cobachie:
そうなんですよ。いつかリベンジしたいですね。進め方で最初戸惑ったのですが、要領は掴んだので次は大丈夫と思っています。その時はudzuraさんもぜひ参加して欲しいです!

コミュニティに参加して得た最先端の技術を仕事にも活かす

ー仕事とコミュニティ運営の両立で、何か意識していたりすることはありますか。

udzura:
普段のFukuoka.rbの運営は自動化している部分もあり両立といった意味では問題ないですね。

ただRubyKaigi 2019の時はどうだろう…。僕が裁量労働だったということもあり、「回り回ってペパボのためになるよね」という感じで、お許しいただけたのかなと思っていますが、上司でありRubyコミッターでもある柴田さんは、複雑だったんじゃないですかね。笑

ただコミュニティに参加することで自身の成長や、登壇をするとペパボのPRにも繋がるので、特にある程度職位が高くなってきた場合は、僕は多少曖昧にしてもいいんじゃないかと思っていています。

やっぱり最先端の技術はそういう現場にしかないので。当然コミュニティで知った新しい技術や、問題解決方法を仕事で活かす前提で、僕は両方とも全力でやっています。

RubyKaigi2019登壇の様子

ーcobachieさんも仕事の両立について何かありますか。

cobachie:
普段は週末や夜にイベントに参加したり、開催することが多いので、仕事の時間とは被りませんし、完全に趣味みたいな感じになっているので、プライベートな時間でやるっていうのも全然苦になっていないです。

ただ、たしかに私もRubyKaigiの時はちょっと大変で、当時いた会社で日中時間をもらうこともありました。

ペパボには今年入社したのですが、転職するにあたっても、コミュニティに理解がある会社に行きたいなと思って転職活動を行っていました。

なので、ペパボは技術イベントのスポンサーもたくさん行っているし、Rails Girlsだったらコーチなどでも様々な方が協力してくださっていて、コミュニティ活動に理解があるというのはわかっていたので、そういったところが、ペパボを選択するうえでの一つの大切な要素になりました。

cobachieさんがコミュニティに参加するメリットはどんなところですか。

cobachie:
RubyKaigiだったら、作っている人の顔が見えるのがすごく楽しいです。自分が使っているものを作ってくれている人に感謝しつつお話までできる!のがすごくいいなと思っています。

ー確かに、そう言われてると私も次回Ruby開発者のまつもとゆきひろさんに会った時の感じ方が違いそうです。

cobachie:
いや、ホントに。会いに行けるコミッターです。笑

ペパボは会社自体がコミュニティになっている

ーコミュニティ参加している人や、今後コミニュティ運営を頑張っていきたい人に、ペパボのおすすめポイントがあれば教えてください。

udzura:
昔いた会社であまりRubyの話ができなかったと話したと思うのですが、ペパボではそういうことって絶対ないじゃないですか。

Rubyの話もみんなでできるし、「技術的な雑談したいです」と言ったらたくさんの人が集まってきます。

なので、ペパボ自体がコミュニティになっているなと思っていて、コミュニティの雰囲気が好きで、そういう働き方をしたい方は、ペパボはすごくマッチすると思っていますし、我々としてもそういう会社を目指したいなと思っています。

また、そういう雰囲気なので、外部のコミュニティと繋がっている方もたくさんいます。外部の勉強会に参加したいとか、手伝いたいとか、何か貢献したいという方には、いろんなロールモデルが社内にいるので、そういった意味でもいいと思います。

ペパボは「アウトプットすること」を大切にしている会社で、パートナーにもすごく浸透しているからこそ、コミュニティ活動や「アウトプットすること」を大切にしたい方には、すごく楽しい環境だと思っています。

cobachie:
udzuraさんが「会社自体がコミュニティみたい」というのを聞いて、「あぁ確かにその通りだな」って思いました。

たぶん東京や福岡といった大きな都市に行くと自分に合った地域のコミュニティというのが必ずあると思うのですが、地方に行くと「地元にはない」こともあると思うんですよね。

けど、ペパボは会社に入った時点でコミュニティに参加した気分になれるのがまずいいですよね。リモートワークなので、どこに住んでいても、ペパボに入ればコミュニティに参加した気分になれるし、さらにペパボにいる人たちがいろんなコミュニティに参加しているから、そこから興味のあるコミュニティに参加する入り口になるっていうのがすごくいいなって思います。

ーありがとうございました。

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